大阪高等裁判所 事件番号不詳 決定
滋賀県○○郡○○町○○番地
和○喜○司
少年
昭和七年六月十四日生
右附添人弁護士
竹○○左○門
右少年に対する窃盜等保護事件について、昭和二十四年十二月七日大津家庭裁判所のなした保護処分の決定に対し、附添人から抗告の申立があつたから、当裁判所は次の通り決定する。
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の理由は末尾添付の抗告申立書の通りである。
第一点、第二点について
しかし少年の保護事件については、その性格上刑事訴訟法の準用なきものと解すべきである。このことは少年法及び少年審判規則を熟読し、殊に少年法第三条がいわゆる虞犯少年に対しても審判し得る旨規定せること、同法第四十条が特に少年の刑事事件についてのみ、少年法で定めるものの外一般の例による旨規定せること、少年審判規則第三十三条では審判調書に公判調書のように取調をした書類及び証拠物の記載を要求していないこと、同規則第三十六条では保護処分の決定に罪となるべき事実とその適用法令の記載のみを要求していること等に目を止むるならば容易に理解されるのである。所論は之と反対の見解に立ち刑事訴訟法の準用あることを前提として原決定を非難するものであるから採用することはできない。
第三点について
しかし、本件少年に対する窃盜等保護事件の記録を精査し各般の事情を仔細に検討考慮するも、原決定の処分は著しく不当なりとは認められない。
よつて少年法第三十三条に従い主文の通り決定する。
抗告申立書
第一点 昭和二十四年十二月七日付送致決定理由中第一乃至第四の事実を挙示しこの事実は少年も認めており、藤○○夫の供述書馬○○次郎及び馬○○太郎の各盜難届書と少年の供述書によりて明らかであるとなし、
しかしてこの事実は刑法第二百二十五条、第百三十条に該当し同法第四十五条を適用する事実であるとした。これによつて見ると犯罪事実を認定するに当り藤○○夫の供述書馬○○次郎、馬○○太郎両人の盜難届及び少年の供述書を証拠に供せられたる事明白である。
然るに同日の審問調書によるときは、
問 この事実はどうか、
この時裁判官は少年事件送致記載の犯罪事実を読聞けた。
答 この通り間違ありません。
との本人の自白あるのみで、その余の証拠書類について何等証拠調をなした形跡がない。
蓋し新刑訴法の下においては、被告の気の付かない証拠が被告の知らない間に法廷に提出されて裁判官の心証に影響を及ぼすということは出来るだけ避け、被告に異議を申立てる機会を与えそれによつて裁判所に異議の当否を判断させ、その上で証拠を許すというのでなければならないのである。これ刑訴法第三百二条及び第三百三条の規定する処によつて明らかである。
しかして被告人以外の者が作成した供述書並びに盜難届は証拠とするには刑訴法第三百二十六条の場合を除き、同法第三百二十一条第一項第三号の制限がある。
然るに原決定はこれ等適法なる証拠によらず重大なる事実を誤認し又は採証の法則に違背したるの違法がある。
右刑訴法は少年法にも当然準用されるもので認められるから、同法第三十二条に所謂決定に影響を及ぼすべき法令の違反又は重大なる事実の誤認あることとなり、原決定は取消さるべきものである。
第二点 第一点説明の如く被告人以外の者の作成したる供述書並びに盜難届が証拠となすべからざるものとせば余す処は少年の審判の際における自白と曩に警察官の面前において自白せる供述調書あるのみである。
刑訴法第三百十九条第二項には被告人は公判廷における自白であると否とを問わずその自白が自己に不利益は唯一の証拠である場合には有罪とされない。
第二項の自白には起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。
とあり憲法第三十八条にも同趣旨の規定がある。
前記の刑訴法の規定は少年法にも準用あるものと認めらるるので、原判定が少年の審判の際における自白並びに自白の供述調書のみにて有罪とされた事になり、少年法第三十二条の所謂決定に影響を及ぼすべき法令の違反ありたるものとして該決定は当然取消さるべきものである。
第三点 少年の父は指物職であり母は三反余りの百姓をなしその上に六人の子女養育に多忙な為め自然少年の監督が行届かなかつた恨がある。今日までは我子を信じておつたが、かりにかかる事態の発生を見たのであるが、今後は家の信用上名誉上十分に注意するのであろうし、少年も月余の拘禁生活に深く反省する処があつたものと認める。
少年は高等小学を出て大津市の職業輔導所を修業し両親の下普通の青年として家業に従事していたものであるが、偶々煙草銭に窮するやら悪友に誘われて心ならず過ちを重ねたが、これも一時の出来心であつて深い悪心から出たものでない。
被害物件も大部分は被害者に還つているし、その損害は少額である。
少年のためにはこれを感化院に収容することは決して策を得たものではない。時として甚だ悪い、これ等の機関がよく管理され、そのため収容は生活よりも全体として恩惠を与えているときでも彼等はこれ等の機関を去つて後恢復の困難に苦しむものである。
それは一度かかる所に収容されると生涯とり去ることの出来ない一種の影響を受けるからである。
これ等の困難は一に少年保護司の観察に付することによつて除去することが出来る。
以上具陳したように家庭家族の関係、年齢、境遇、動機、原因、初犯の情状等を考慮せられるなれば、少年法第二十四条第三号の処分は著しく不当なるものと認めざるを得ないのである。
よつて原決定を取消し相当の決定あらんことを望む次第である。